いやーほんとにね、誰もが思ってなかったよね。コロナ禍がまさか、まだ続いているなんてね。去年の4月に緊急事態宣言が初めて発令されて、ライブ関連のイベントごとは全部中止になってしまった。それまで全く馴染みのなかった配信ライブ、なんていう言葉も、もうすっかり定着したよね。少なくとも現地に行かなくても観られるという選択肢が増えたことは良かったんじゃないかな。おそらく、コロナが流行っていなかったら今まで通りおんなじだっただろうしね。昨年末のサザンオールスターズのライブも配信で観たけれど、家族で盛り上がってさ、それはそれは最高だったよ。
ただそんなことをやっていても、やっぱり実際に現地で観る感動っていうのは何にも変えられない体験になることは間違いない。コロナウイルスの流行から一年半が経って、最近だとようやくツアーを回るようなアーティストもちらほらと出てきた。びっくりしたのは、アメリカとかイギリスのライブを観てみたらさ、もう観客はみんなマスクしていないのね。国民性というか、ワクチンを摂取して、ウイルスの陽性反応も出ていないからオッケーっていう感じなんだろうか。電車の中とか、道を歩いていてもみんながみんなマスクをつけている日本人はなんて律儀なんだろうと思っちゃうよね。そういう自分ももちろんマスクをつけているんだけど。
じゃあ、日本も世界的にみて感染者が少ないから、マスクなしでワクチンを打った人はこれまでとおんなじようにライブを観戦できるようにすればいいじゃんと思う人もいるかもしれない。まあ、実際いるんだろうけどね、自分はそっち側の人間にはどうしてもなれない。もちろん、音楽は好きだよ。でもね、今の状況で音楽をライブというフォーマットで体験するという行為はイマイチ気が向かないのがホンネ。大衆が音楽を生演奏で、聴くことができるようになったのって、ほんの百年ぐらいのお話なんだよね。ポピュラー音楽に限って言えば、日本でその文化が根付き始めたのはもっと最近のはず。辺鄙な山奥——っていうのはちょっと言い過ぎだけどさ、アーティストが街きてくれない、なんていう地域だって日本にはまだまだ沢山ある。首都圏の特に、東京の〇〇系なんていう音楽があるけれど、それを聞く度に虫唾が走っちゃうよね。音楽は、一部ではなくどこにでも鳴ってるし、鳴らせるんだよ。その方法が限られちゃうっていうだけ。
だから何が言いたいかっていうと、音楽を聴く上でライブっていうフォーマットが必要不可欠なものじゃないんじゃないかってことに気がついたんだ。オレは北国の田舎で生まれ育って高校を卒業したと同時に、関東の方にやってきたんだけど、それまでライブっていうライブは一度も観に行ったことがなかったのね。だからさ、関東の高校生とかは羨ましいなって思っちゃうよね。だって、電車でちょいちょいって行けば、すぐに観たいアーティストが観られるんでしょ。友達とフェスに行ったりさ、なんていうか田舎者の自分からすればその辺はいいなぁって思っちゃう。でも、高校の時は、ライブに行きたいなっていう感情にはあまりならなかった。別に天邪鬼っていうわけじゃなくて、部屋のコンポとか、イヤホンから聴こえてくる音楽で満足だったわけ。
今は関東にいて、コロナでライブが中止になる前は自由に色んなアーティストを観に行ってた。でも、去年と今年は、高校の時を思い出した。ライブに行けない、というかとにかく音楽を部屋に籠って(別に籠もらなくてもいいんだけど)聴くっていうやつ。いざその頃みたいに音楽を聴いてみるとこれも音楽の聴き方としては全然悪くない、っていうことに気がついた。で、今も何のストレスもなく生活できてるんだよね。そんなわけで、オレにとってライブはほんとに必要なものだったのかなぁ、って改めて思ってしまったのよ。そんな引き籠り音楽ファンになってしまった自分にとって、今年のフジロックフェスティバルの開催は頭の上にクエスチョンマークがつきまくった。そもそも感染者が爆発的に増加している状況で開催に踏み切るのは全く理解ができなかった。誰にも迷惑をかけないなら全然いんだけどね。今回ばかりはそうはいかない。
あと、以外に痛手だったのは音楽イベントに対するイメージが悪くなってしまったっていうこと。世の中っていうのは結局イメージで動いているもんなのよ。一度悪いイメージがついてしまうと、それを払拭するには途方もない時間がかかるはずなんだよね。出演者のコメントもとことんダサかった。特にKing Gnu。なんか、何が正解なんだかわかんないけど、俺たちは悩みながら、でも結局音楽が好きだからさここに集まってて、みたいな、フワついたコメントされてもなぁと思っちゃった。いや、これがさそのへんのチャラチャラしたバンドが言ったんならふーんって感じで受け流せるんだけど、日本でトップクラスの人気のバンドなんでしょKing Gnu。そんな立ち位置の人間がその程度のことしか言えないっていうのは、日本の音楽業界の行く末が分かっちゃったよなって感じさえしちゃう。
そのちょっと後に、ヒップ・ホップのイベントが大変賑やかで賛否両論買ったけど、これもイメージ悪化に拍車をかけたね。まあ、ヒップホップっていうのは、そもそも悪人で何が悪いっていうスタンスで全然いいと思うんだけどね。下手にすみませんでしたって謝るよりはさ、そういう否定的な意見さえ突っぱねて、我が道を進んで行った方がいいと思うのよ。だってそっちの方がアナーキーじゃないっすか。アナーキーなこと歌ってんのに、政府にヘコヘコしちゃうのはそれこそカッチョわり〜って感じなので、彼らは引き続きド派手に頑張ってほしいよね。もちろん、音楽イベントに対するイメージは右肩下がりになってしまうけれども。
とか何とか色々と書いてきたけどさ、なんかはっきりモノを言うようなアーティストがもっと現れないかなとか思うわけよ。そこに正解とかは全然求めていなくて、とにかく自分の主張を持っているっていうか。今の日本人アーティストにはどうもそれが足りないように思えちゃうのよ。全部が中途半端。去年もそうだけど、今年の日本の音楽業界の立ち回りを見ている限りだと、そういうアーティストは残念ながら現れそうにもない。もう斜陽産業一直線ですよ、日本の音楽業界は。